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「ねー桐生」 「なに」 「何で、」  隣の席の女子は、そこで一度言葉を切った。違う女子と目くばせして「この間まで何で学校休んでたの?」と尋ねてきた。 「さぁ、何でだろ」  コンビニで買ったパンを頬張ってそう答えた。これは雑に受け流したわけじゃない。  本当に分からないのだ。そこら辺の記憶がない。まるで、誰かに盗まれてしまったかのよう。 「心配したんだよ」  ね、とお互いに顔を見合わせる。同意――いや、意思確認。 「髪もさ……そんな色になっちゃってるし」  ああ、この人たちが本当に訊きたかったのはそれだ。もしかしたら、クラス全体が聞き耳を立てているのかも。 「ほんとにびっくりしたけど、でもなんか逆に、前より話しやすくなったよね」 「前は近づいたらいけない人みたいな感じだったよね」 「それってどんな感じなの?」  喉の奥で笑う。当たり障りなく。 「凄すぎって感じ、」 「それはもういいよ、で、何で染めたの?」  不自然に遮られた会話。向かった先は、さら、と陽光を跳ね返す銀髪。  鏡の中の自分には見覚えがあったし、染めた記憶は確かにある。だけれども、自分でもどうしてこの色に染めたのか分からない。  だから、理由もない。多分、きっと。
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