4人が本棚に入れています
本棚に追加
2
「ねー桐生」
「なに」
「何で、」
隣の席の女子は、そこで一度言葉を切った。違う女子と目くばせして「この間まで何で学校休んでたの?」と尋ねてきた。
「さぁ、何でだろ」
コンビニで買ったパンを頬張ってそう答えた。これは雑に受け流したわけじゃない。
本当に分からないのだ。そこら辺の記憶がない。まるで、誰かに盗まれてしまったかのよう。
「心配したんだよ」
ね、とお互いに顔を見合わせる。同意――いや、意思確認。
「髪もさ……そんな色になっちゃってるし」
ああ、この人たちが本当に訊きたかったのはそれだ。もしかしたら、クラス全体が聞き耳を立てているのかも。
「ほんとにびっくりしたけど、でもなんか逆に、前より話しやすくなったよね」
「前は近づいたらいけない人みたいな感じだったよね」
「それってどんな感じなの?」
喉の奥で笑う。当たり障りなく。
「凄すぎって感じ、」
「それはもういいよ、で、何で染めたの?」
不自然に遮られた会話。向かった先は、さら、と陽光を跳ね返す銀髪。
鏡の中の自分には見覚えがあったし、染めた記憶は確かにある。だけれども、自分でもどうしてこの色に染めたのか分からない。
だから、理由もない。多分、きっと。
最初のコメントを投稿しよう!