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「気分だよ」
「えーそれだけじゃそんな色にしないでしょ」
そんな色、か。確かに高校生にはそぐわない色だと思う。理由ね。もしかしたら“髪を染めるのに理由が必要な世の中”への反抗かも。
個人的には意外と気に入ってるんだけどな。ほら、この光を透かす感じとか――
「綺麗だよね」
綺麗と思った時、反対側の席から同じ言葉が聴こえた。
「あたしも染めるならそんな色にしたい」
声の主はこのクラスの委員長――楠田さん。この世の委員長代表みたいな彼女は、首を少しだけ傾げて、サラサラの黒髪を肩から滑らせてお茶目に笑った。
「あ、りがと」
どうにかお礼を口にのせる。
彼女の言葉に同調するように片方の女子が「確かに、綺麗だよね」と言った。
一瞬の静寂の後、裏切られた、みたいに目を見開いたもう一人も慌てて誤魔化すように笑って「その髪色でピアノ弾いてるとこ見てみたいかも」と口にした――
束の間、空気が凍った。
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