羨望

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気がついたときには、どうやって移動したのか憶えていないが、会社の近くの公園のベンチに寝ていた。 空は明るくなっていて、二日酔いで頭が重い。 今何時なんだろう? 確認しようとスマホを取り出そうとして、スマホがないのに気づいた。 それどころか、カバンもない。 コンビニで時計を確認すると、八時半だった。 ここから会社までは、歩いてもそう遠くない。とりあえ­ず会社に行ってしまって、そこから『春の海』に電話して、カバンを置き忘れてないか確認しよう、と思った。 オフィスのエレベーターを降りると、思いもよらないものが目に飛びこんできた。 入口のアクリル壁越しに、昨日の男がホワイトボードの前に立っているのが見えた。敏郎のチームメンバーの部下たちが数人立ってとりかこんでいる。 デスクがあるのと同じ部屋にオープンスペースがあるという洒落た造りになっていて、毎朝そこで短いチームミーティングをするのが日課だった。 男は昨日のおどおどした卑屈な様子はなく、言葉も歯切れがよく、背筋が伸びてきびきびしていた。 そこは本来なら、敏郎が話している場所だ。 奇妙な状況に戸惑いつつも、近づいていって、あいさつした。 「おはよう」 みな驚いた顔でこっちを見た。 「おはようございます。……失礼ですが、今日はどういったご用件で?」 近くにいたメンバーの女性が、他人行儀な応対をした。 「え?」
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