羨望

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いきなり居場所も持ち物も奪われて放り出された敏郎は、奇怪な状況に震えあがったが、習慣とはすごいもので、家に帰ろうと思った。 電車賃すらないので、都心から電車で一時間以上かかる自宅まで、歩いて帰った。 着いたときには、もうすっかり暗くなっていた。閑静な住宅街は寝静まったように電気の消えている家も多く、自宅の明かりも消えていた。 足が棒になって、長い道のりと、そのあいだ感じていた悪い予感のせいで憔悴しきっていた。 それでも、インターホンを押す。確かめないわけにいかなかった。 一度押しても反応がないので、何度か押した。 これだけ鳴らせば眠っていても起きるだろう。今ごろインターホンのカメラで俺の姿を確認しているはずだ。 ただいまを言って、「鍵がないから開けてくれ」と言った。 しかし、数分待っても玄関は開かなかった。 敏郎は庭にまわりこんで、リビングに面した大きな窓を激しく叩いた。 「麗花! 頼むから開けてくれ!」 すると閉じたカーテンの向こうから、聞き覚えのある男の声がした。
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