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特別なチームメイト
「ごめん。話聞いちゃった。」
呆然として教官室を出たなつみに、声を掛けた者があった。チームメイトの………元チームメイトの遥香だ。
遥香は下はジャージだが上は体操着、髪もひとつにまとめたままだ。そのせいで、うつむいても隠す襟も髪もない顔は、気まずそうだった。
なつみはショートヘアの頭を掻きながら、苦笑いで返した。
「ばかだよね、私。
私がいなきゃチームは成り立たないなんて、思い上がってた。」
「なつみがいなきゃ成り立たないのは本当だよ。」
遥香は即答で言ってくれた。
「ありがとう。
でも、こういうわけだから。
今までありがとう。」
なつみが言うと、遥香は目を赤くした。
涙の浮かんだ目を隠すように遥香は右を向き、なつみを部室へと促した。
二人は沈黙したまま、廊下の角を曲がった所にある部室まで歩いた。
部室はチームごとに違う。
体育館に近いほうから A、B、C チームの各部室が並んでいる。
「引っ越しが決まったなら~♪
その日のうちがいいでしょう~♪」
皆がすでに帰ったあとの部室で、なつみは自分のロッカーを開け、無理に歌っておどけた。
遥香は笑わなかった。
「手伝いたいけど、引っ越しを手伝うのって、サッサと出てけって言ってるみたいよね。」
「そんなわけないじゃージー♪」
なつみはたまたま手に取った替えのジャージを歌にくっつけた。苦しいおどけは、やはり不発で、遥香は笑わなかった。
「あーあ、遥香1人笑わせられないなんて、もう本当に存在価値がないよ。ただのポンコツだな。」
「笑えるわけないでしょ!」
遥香が声を荒げた。
「あんたが、あんたがいなきゃ、少なくとも私は無理!」
遥香はそのまま両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「遥香………」
しゃくりあげる遥香を見て、なつみの目も赤くなった。
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