許されない壁

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常務の「おいで」は麻薬だ 帰ると決めた小さな決意も粉々に砕いてしまう 「一人分だけ?」 「・・・はい」 常務は私の返事を聞いた途端に立ち上がって カウンターの中へと入ってきた 「あゆ」 ヒールを脱いだ所為でいつもより上から聞こえる声に恐る恐る顔を上げる 「俺に叱られたいのか」 僅かに持ち上がる口角に笑窪が姿を見せた途端 「キャ」 視界がグルリと回った 「え」 「お前、強制連行な」 「え、あの・・・常務?」 コーヒーを用意しなかっただけで 叱られるとか姫抱っことか もう、なにがなんだかわからない 私の呼びかけを完全に無視した常務は リビングから出ると長い廊下の途中のドアを入った 「・・・っ」 そこは・・・ 大きなベッドが鎮座する ベッドルームだった 「じょ、っ」 私の動きを封じ込めるように覆い被さる常務に唇は塞がれ 両手はシーツに縫い止められた コーヒーの苦味の残る舌に絡めとられるだけで 抵抗しようとしていた身体から力が抜ける 「あゆ」 「・・・」 「お前さ、俺のもんだろ」 「・・・」え? 暑さで頭がイカれたのだろうか? 突然の謎かけに思考を奪われているうちに 歩きやすさのためのプリーツの裾から容易く侵入した手は 下着の脇から指を滑り込ませ 気がついた時にはキスだけで少し泥濘むそこに指が挿し込まれたあとだった 「・・・っや・・・ん」 「キスだけで、こんなになるのか」 「ちが、っ」 「じゃあこれは、なんだ?」 スッと抜かれた指は「ほら」と目の前に差し出された ヌラヌラと光る長い指に顔を背けようとした瞬間 常務の赤い舌がそれを舐めた 「・・・っ」 「あゆの味がする」 「・・・や、め、っ」 「やめても良いの?こんなに欲しがってんのに?」 「・・・」 「女の子は素直が一番だよ?」 今度はクッキリと見えた笑窪に 白旗をあげるのは直ぐだった
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