許されない壁

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それからのことは、熱に浮かされたみたいに曖昧でよく覚えていない ただ・・・ これまで二人としか付き合ったことのない私の身体は 最初から常務のものだったみたいに乱れ 狂ったように喘いだ所為で掠れた喉も 指一本さえ動かせない身体も 醜態を晒しただけで ドロドロに溶かされたあとは 深い眠りに落ちるだけだった ・・・ 「あゆ」 「・・・ん」 「あゆ」 「・・・、ま、って」 「小野田」 「・・・はいっ、っ」 微睡からの覚醒に頭が一瞬真っ白になった 「フッ、面白い」 間近で笑っている常務に 意識を飛ばす前の醜態が蘇ってくる 顔に熱が集まる私の頬を挟んだ常務は 「可愛い反応してると、またヤリたくなるが」 「・・・っ」 「俺も腹ペコだから、今は我慢する」 「・・・あ、の」 「飲みに行こうか」 私からの質問には答える気はないらしい 「帰るという選択肢は・・・」 「ある訳ないだろ」 「では、一度着替えに戻る時間はありますか?」 「だから、ある訳ないって」 「・・・え」 昨日の朝から着たままのスーツは もう見るも無惨に皺がついている 「買いに行けばいいだろ」 そういう選択肢・・・ 「んで、此処に置いておけばいい」 「・・・え」 プチパニックに陥る私のことなんて 全く気にならない風に 「行くぞ」と手を引いた 「・・・っ」 起き上がったことで見えた身体は 赤い跡が数え切れないほどついている 「それ、俺の所有印な」 悪怯れる風のない常務は 鎖骨のそれに触れると満足そうに笑った
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