逃避行

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「や・・・ぁ、・・・っあ」 海岸線を小一時間走ったところで 昼間なのに怪しいネオンの光るラブホテルに連れ込まれた 埃っぽい室内に霰もない私の声とベッドの軋む音だけが響いて いつもより激しい行為に呼吸が追いつかない その乱れる息をも吸い取るように 重ねられた唇は 意識ごと奪うように責めてきて 時折与えられる痛みとともに 常務の静かな怒りを受け止めた 「・・・も、っ・・・や、め」 何度許しを乞うても終わらない甘い地獄のような時間は 手首を拘束するネクタイが解かれることはなく 果てても果てても許されないお仕置きがいつ終わったのか 常務の胸に抱かれて眠っていた 「・・・っ」 「起きたか」 「・・・は、い」 「クッ、声が出てないな」 「・・・っ」 囁くようにしか出せない掠れた声に驚いているうちに ギシとスプリングの音を立てて起き上がった常務は小さな冷蔵庫から缶のお茶を持ってきてくれた 「今時珍しいな」 プルタブを引いて持たせてくれたそれに口をつける ゆっくりと喉の奥に流し込むと、余程喉が乾いていたのか半分以上飲んでしまった 少し気分も落ち着いた私の耳に飛び込んできたのは 「今日は病欠の小野田の付き添いってことになってる」 「・・・っ、え」 会社も辞める覚悟を決めた私の処遇だった 「会社のお咎めはないが、俺への詫びは続くぞ?」 「・・・っ」 「だって、逃げたんだもんな?」 「・・・それ、は」 「理由があるのか?」 あるに決まっている それに・・・ 背徳感から逃れられない苦しみを もう、隠しておけない
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