リング

1/3
前へ
/34ページ
次へ

リング

「聞こうか」 薄い唇を三日月にして微笑む顔に覚悟を決める 「会社を辞めようと思います」 関係を断つにはコレしかないと思った 私の苦渋の決断を常務は表情も変えずに聞いたあと 「ふーん」 興味もないような返事をした ・・・そっか、そうだよね 都合の良い相手は、これからも事欠かないだろう 私が退職したからといって人選に困ることもない 結局、振り回されただけの関係に残ったのは 罪悪感だけではなかった 「あのさ」 「・・・・・・はい」 「なにが嫌?」 ・・・は? これまで、自分は苛立ちのスイッチはなかなか押せない遠いところだと思ってきた だから、気が長いのが取り柄だとも思ってきた でも 今のは私でもカチンときた だからと言って常務相手に声を荒げるなんてことはできないから 「逆にお聞きしますが、嫌じゃないとお思いですか?」 静かに怒りを吐き出した 「俺が聞いてるんだけど 逃げ出した理由に繋がるってことだよな?」 「はい」 「始まり方は酔った勢いもあったかもしれないし、多少強引な面も否めないが 気持ちは通じていると思っていたし、なにより仲のいいパートナーだと思っているんだ」 常務の気持ちを初めて聞いたことより 常務の罪悪感の無さに怒りが呆れに変化する 「仲のいいパートナー?」 「俺はそう思っているけど、あゆは違う?」 「・・・違い、ます」 「ショックなんだけど」 ショックなのはコッチのほうだ 表情にその思いが乗っかっていたのか それを汲み取るように 「いいよ、なんでも聞くから言ってみて」 常務は片方の笑窪で柔らかに微笑んだ 「・・・はい」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1180人が本棚に入れています
本棚に追加