リング

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統一感もないインテリアの室内に 唯一色のついた赤いソファに座った常務は ベッドの上に座っている私を見つめている ひとつ大きく深呼吸をして覚悟を決めた 「背徳感と罪悪感です」 「ん・・・と、どういうこと?」 本当にわからないのだろうか・・・ それとも、敢えての恍けだろうか どちらにしても何度聞かれても答えはひとつなのだ 「道を外してしまった背徳感と 常務の奥様への罪悪感しかありません」 悔しさに喉の奥が熱くなる 泣いちゃだめだと舌先を噛んで俯いた私の耳に聞こえてきたのは 「俺の奥さん?」 いつもより軽めの常務の声だった 「ちょっと待って、あゆ 冷静になろうか?」 尚も続くその軽めの声に 泣き出しそうな気分が引っ込んだ 同時に顔を上げると、目を丸くして首を傾げた常務が見えた 「至って冷静だと思いますが・・・」 「いや、冷静じゃないよ? だって、俺の奥さんって誰だよ」 「・・・・・・?」 ここまでの恍けは確信犯的にも思えてきた それでも、避けては通れない話をする覚悟を決めたのだ 真っ向勝負からは逃げない 「常務の奥様が“誰か”は存じませんが 既婚者である常務との関係をこれ以上続ける訳には・・・」 「は?!」 私の声を遮るように被せられた常務の声に肩が跳ねた 「あゆ、それ本気で言ってる?」 「はい」 本気もなにもこんなに声が震えている事実は、冗談で話す内容ではないことを物語っている そんな私を宥めるように一度微笑んだ常務は 「ちょっと待って、頭の中を整理するから」 顎に手を当てて思案顔になった
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