リング

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ーーーーー数秒後 僅かに目を見開いた常務はその顔をあげた 「なぁ」 「はい」 「もしかして、コレ?」 そう言って前に突き出した常務の左手薬指には細いリングが見えた 「・・・はい」 事実を認めるだけなのにギュウと締め付けられる胸が痛い 子供みたいに笑う時も 笑窪を片方凹ませる微笑みも 全部全部、独占できない現実が私を責めてくる その苦しさから逃れるように俯いた その視線の先にソファから立ち上がって目の前に立った常務の足が入ってきた 「あゆ」 「・・・」 「ほら、こっち向いて」 急に優しい声をだすなんて狡い そう思った途端に堪えようとしていた涙がポトリと落ちた 「あゆ」 もう一度名前を呼ばれたあと 俯いた私の視界に蹲み込んだ常務の顔が飛び込んできた 「・・・っ」 私の両手を挟むように握った常務は 「あのさ、泣いてるとこ悪いけど 色々突っ込ませて貰っていいか?」 若干、呆れているようにも聞こえる ため息混じりの声を出した 「・・・?」 「この指輪さ、結婚指輪じゃない」 「・・・・・・?」 「知らないか?城山神社の願掛け」 「・・・っ!知って、ます」 お城の麓にある城山神社の恋愛成就のお守りは大人気の指輪型で 想い人への願掛けをしながら着けると通じるという でも、それは左手の人差し指のはず 「兄貴夫婦が参拝した“ついでに”って買ってくれたんだけどサイズが合わなくてさ、薬指になったんだ」 「・・・そう、なんですね」 「そう、だから、これは結婚指輪じゃない」 「は、い・・・?」 だからと言って既婚者であることには変わりないのだから 今の状況を打破できる材料にはならない 「思い込みが激しすぎないか?」 「・・・え」 「仕事をする上で、あゆは考え方が柔軟だと思っているけど 自分のことになると頑なだな」 「・・・」だって 「あのさ、難しく考えんなよ」 「・・・?」 「あゆはこの指輪で俺を判断したってことだろ?」 「はい」 「それが崩れたってことは?」 「結婚指輪は別に、ある?」 「なんでそうなる」
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