真実

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真実

「えっと」 だめだ・・・常務の言いたいことが全く想像できない 「俺、未婚」 「・・・・・・は?」 間抜けな声になったのはこの際許してほしい 「でもっ」 「あゆが何を根拠に俺を既婚者にしたがるのかは知らないが 俺は正真正銘“独身”だぞ?」 「・・・独身?」 声にしてみるとその言葉の威力は絶大で 「嫁がいるのに他の女に手を出すような不誠実な男じゃないけど、俺」 真剣な顔をした常務には悪いけれど 「フフ」込み上げてくる笑いを止められなかった 「あゆ」 「フフ、あ、あの、フフ、すみま、せん」 「泣かれるより断然笑ってる方がマシだが 結構真剣な話をしてるぞ?」 そう言う常務も両方の笑窪はしっかりと凹んでいる 無駄に緊張していた身体から力が抜けてホッとしたのも束の間 違う意味で攻められるのは直ぐだった 「んで、不倫を苦に職務放棄で逃亡した上 思い込みで俺を罪人にした罪は重いよな?」 再び意地悪そうに微笑む常務に 肩に力が入った 「え、と、それは、その、あの」 「急ぎの仕事を“一人で”片付けて、飛び出した駅前で特大ビジョンの隅にあゆを見つけた俺の衝撃も」 「・・・っ」 「多少強引な面は認めたが 俺なりに大事にしているのはエゴで あゆは嫌々俺に抱かれてたんだもんな?」 「・・・それ、は」 「恋人だと思っていたのは俺だけ」 ・・・恋人 「・・・あの」 「大事なことを話せないんだから 恋人とは言えない、か」 「・・・常務っ」 「あゆ」 笑窪が消えた常務の頬と真剣な眼差しに背筋が伸びた
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