真実

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ガバッと音が聞こえるほど勢いよく下げた頭 常務の言葉を静かに待っていた私の耳に聞こえたのは 「・・・ブッ」 盛大に吹き出す常務の笑い声だった 「小学生かよっ」 恐る恐る顔をあげる 口元に拳を置いて笑う常務を初めて見た衝撃より 声を上げて笑う様子に胸が高鳴る ギシッと弱いスプリングの音を立てて隣に腰掛けた常務は 「俺さ、あゆに一目惚れだった」 そう言うと私の頭の上に手を乗せた 「・・・っ」 その大きな温かい手から伝わる熱が 私の頬も染めるみたいに熱が集まる 「会社に戻ることになって一番に出した条件があゆを第一秘書にすることだった」 噂でしか有り得ない内情に胸が熱くなる 「会社の“噂”も勿論知ってるが そんなことどうでもよかった」 常務の真っ直ぐな思いに ツンとする鼻を堪えきれなかった 「泣くなよ」 「・・・っ」 「好きな女に泣かれるのは胸が痛い」 ・・・・・・好き、って 「・・・じょ、むっ」 「俺さ」 「・・・は、い」 「多分、いや、少し・・・歪んでる」 イキナリの告白に視線を向けると 困ったように眉を下げるのが見えた 「うちの会社ってそこそこ有名だろ だからかな、まともな恋愛ってしたことがないんだ」 「まと、も?」 「俺の定義だが。誰かを好きになって 告白して、付き合う的な?」 「・・・分かります」 常務の定義じゃなくて、殆どの人がそういう恋愛だと思う 「初恋は中学生の時」 「・・・」 「生徒会で一緒だった子でさ 告白したら二つ返事でOKが貰えた」 「両想いだったんですね」 「違う」 「・・・え」 「中学生の恋愛なんて、告白した途端に変に意識して話せなくなるような可愛いもんだった」 「今とは想像もつきませんが」 「フッ、確かにそうかもしれないな」 「ある時な、彼女が友達と話しているのをたまたま聞いてしまったんだ」 「・・・なんて」 「『相手を好きにならなくても お金が全て解決してくれるのよ? それなら相手は沢田に限るよね』って 『“重役夫人”は言うことが違うわ〜』って冷やかす友達に“でしょ〜”なんて答える彼女が酷く醜く見えてな」 「・・・酷い」 「女は15やそこらで金がすべてと言い切れるんだとある意味吹っ切れた もちろん、その付き合いはそこで終わり それからの俺は気持ちが不要のワンナイトの関係だけを続けてきた、その夜だけ、素性もなにも知らない お互いウインウインの関係」
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