懐かしい顔

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懐かしい顔

「・・・ん」 「起きたか」 「・・・っ」 いつかのデジャヴが蘇って、肩に力を入れたところで、頭の後ろからクツクツと笑う声が聞こえた その声に身体を少しだけ捩ってみると、背後から抱きしめられる形で、ベッドに寝ていたことが分かった 「お腹空いた」 「・・・ですね」 昼前に丈の焼きそばを食べただけの一日を思い返していると 「もう触れさせんなよ」 少し拗ねたような甘い声が聞こえた 「・・・っ、はい」 触れる、というか不可抗力なんだけど、ね そんな直人さんが可愛いくも思えて ウッカリ緩みそうな口元をどうにか誤魔化すつもりが 「今、笑おうとしただろ」 誤魔化せていなかったらしい 重い枷を外せただけで、こんなにも人間味溢れた直人さんに気づく きっとこれまでだって色んな面を見せてくれていたはずなのに キッチリと線引きをして、気づかないようにしてきた それだけを考えてみても “恋人のつもり”だった直人さんからすれば 私は感情を出さない嫌な女だったはず だから、これからはひとつも取りこぼさないように覚えておきたいと思うし 私のことも知って欲しいと欲深くもなる 自分の変化にフフと胸の中で笑って グルリと身体を反転させた 突然の行動に僅かに目を開いた直人さんは 「どうした?」 前髪をよけてオデコに唇をつけた 「お腹空きました」 「フッ、あぁ」 「週末なので、お酒も飲みたいです」 素直に甘える私をフッと笑った直人さんは、オデコに唇をつけたまま一度ギュッと抱きしめると 「どっちも行こうか」 自分が起き上がるのと一緒に私を起こしてくれた 「・・・っ」 シーツが身体から落ちた瞬間 露わになる肌に息を飲んで胸を隠した 「今更?全部知ってるけど」 「それ、とこれとは、違いますっ」 起き上がる時に直人さんが部屋の灯りもつけたから、恥ずかしいに決まってる 「同じだろ」 「違いますっ」 ハハと軽快に笑う直人さんは 自分自身も隠そうとしないまま 私の手を引いてバスルームへと連れ込んだ
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