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予測不可能
株式会社SAWADA
総合商社の本社を構えるこの街は
現存天守閣で有名なお城の裾野に広がる城下町
その歴史ある風景と近代的な顔を併せ持つ街の中央駅から徒歩二分
大通り沿いに建つ本社は数年前に建て替えられたばかりの近代を象徴すると云える高層ビルだ
そのSAWADAには、いつの頃からかは知らないけれど
まことしやかな噂がある
その代表的なもののひとつに
“愛妻家”の役員のため専属秘書は全て男性を起用するというものがある
ただし、第二秘書はその限りではない
秘書課に席を置いて二年、三度目の春の人事異動はその“噂”を崩してきた
秘書課 小野田歩
ーー年 四月 一日付をもって
常務取締役第一秘書を命じる。
社員食堂前の掲示板に貼り出された自分の名前入りの辞令を、食い入るように見つめる私と、僅かに距離を開けて騒つく社員達
こんな時、秘書課以外に交流している社員が居れば良かったのにと独りごちても状況は変わらない
動けない私に声を掛けてきたのは
社長秘書の永田課長だった
「驚いた?」
「・・・かなり」
「常務が直談判したからね」
「・・・冗談、ですよね?」
「大マジ、で、早速呼び出し」
「・・・っ」
「直ぐ向かって」
「はい」
呼び出しに応じるために役員室のある最上階でエレベーターを降りると、廊下がいつもより長く見えた
秘書課に限って他の社員達と差別化されていることは
役員室の一階下にある秘書課のフロアに個室の更衣室が与えられること
他の社員達と交流がないのもその所為だと思えるそれは
一坪程度の狭いものだけれど、小さいながらも洗面化粧台まで備えられた快適な空間
更には使うエレベーターが役員と同じ専用のものになり
営業部のエースと呼ばれる先鋭達に会うことはおろか
禁じていない社内恋愛が始まることもない隔離状態なのだ
「・・・ハァ」
役員フロアの中で一番手前にある常務室まで
歩幅を制限されるタイトなスカートにもかかわらず、あっという間に着いてしまった
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