予測不可能

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「じゃあ、行こうか」 「・・・?」 「ほら、行くぞ」 正式な辞令発動は週明けだけれど どうやら新しいボスは気が早いらしい 行き先も分からないまま、連れ出された意図を探るうちに到着したのは 一生足を踏み入れることもないと思っていた老舗のテーラーだった 常務のスーツを新調するのだろうか 「いらっしゃいませ」 味わい深い木製カウンター越しに出迎えを受け 店舗スペースを抜けた先にある個室に通された 部屋の中は半分がフィッティングスペースになっていて 大きな鏡の前には折り畳まれた生地が並んでいた ここまで案内をしてくれた女性と入れ替わりで入ってきたのは 「杉浦です」 深い色のスーツを着た店主だった 「宜しく」とは返したもののソファに座ったままの常務に戸惑っているうちに 「小野田様、こちらへ」 杉浦さんに呼ばれたのは私だった 「?」促された手の先は大きな鏡の前で 不安な気持ちは視線を常務に移したらしく 目が合った常務は「従って」と薄く笑った 「・・・」 これまで知るところのなかった第一秘書は 身につけるスーツまで支給されるという いきなりの特別待遇に戸惑う暇も無く 採寸が始まると、何故か常務は形状に好みを押し付けてきた 「ストッキング禁止な」 「・・・え、と、それは」? どういうことかと聞こうとした口は 「俺が嫌いだから」 単なる我儘に付き合わされる悔しさに閉じてしまった 生脚を晒す恥ずかしさから、少しでも綺麗に見せたいとヒールの高さを上げたのは小さな私の意地と抵抗 タイトなスカートなのに右太腿裾に5本の細いプリーツが入るだけで歩幅が広がったのは副産物だと思うことにした それなのに・・・ 仕立て上がったスーツを着て出社した朝 本当の理由を聞かされることになった 「俺好み」 常務は酷く妖艶に笑った
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