許されない壁

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許されない壁

常務との仕事にも慣れてきた七月 日頃の慰労と連れてきてもらった会員制ベイサイドホテルのディナーでそれはおこった デザートを食べる前に酔い潰れてしまったらしい私は 目が覚めると同時に 置かれた状況に息を飲んだ 「おはよ」 「・・・っ、・・・あ、の」 確か、常務とディナーに出掛けて それから・・・ん、と 軽めのワインだとソムリエに説明を受けたワインは口当たりがよくて 常務のお喋りに合わせるように 注がれるまま飲み過ぎ、た? 「あの・・・」 「ん?」 もう、なにがどうなったのか 記憶をかき混ぜたところで見つけられそうにない けれども常務も私も見事に裸で 見たこともないベッドの上で目を覚ました ということは・・・ 「やったかどうかってこと?」 「・・・はい」 「あんなに乱れたのに?」 「・・・っ」 「忘れたのか」 記憶はなくても全身の倦怠感と下腹部の重ダルさ どう考えても、事後の状況に覚悟を決めた 「すみません」 「フッ、まぁいい」 フワリと笑うその口元に胸が音を立てた いつも上着を脱ぐ時に見惚れていた筋肉質の上半身 笑うと片側だけ現れる笑窪 スラリと高い身長は細身のスーツを際立たせ そのスマートな所作からは育ちの良さが垣間見える 口調はいつも柔らかで いや、時折挟んでくる俺様口調も どこをとっても眉目秀麗な男 そんな常務は瞬く間に女子社員の憧れの的になり 常務のお兄様である専務と人気を二分している かくいう私も、直視しないよう、ただただ視線を外すように心がけている それは・・・ 専務も常務も既婚者 だから“憧れ”は憧れのまま その域を越えることは許されない それを・・・ いとも容易く コエテシマッタ
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