許されない壁

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『出して』としか聞いていない行き先 それ以上の説明をすることなく タクシーが停車したのは、中央駅裏のマンションだった ・・・・・・どこ? 聞いていた常務の家とは違う此処に高速回転中の頭はもちろん役に立たず 引っ越したのだろうか?と安直に考える間に常務の脚は動き始めていた 「さぁ、行こう」 「・・・あ、の」 「シッ、黙ってて」 変わらず腰を抱かれたままエントランスを抜ける 広いロビー内の 豪華な内装に驚いているうちに 「おかえりなさいませ」 カウンターの中から出てきたコンシェルジュが丁寧にお辞儀をした それに「ただいま〜」なんて軽口を叩いた常務は二機あるエレベーターのパネルに手を翳した 静かに開いた扉の中に乗り込むと 今度はモニターが常務の顔をスキャンする どこにも触れずに到着したエレベーターから降りると 広いホールに、二軒分の門扉が見えた 「さ、こっち」 「・・・あのっ」 「あゆ」 「っ」 「静かにって言ったよ?」 でも、家の中に奥様がいたら? どう見ても朝帰りの二人を笑顔で出迎えてくれるとは思えない 最悪、修羅場かもしれない それなのに 常務の“静かに”は声色からは想像できないほど威圧感があって 言いたいことを飲み込むしかなかった 鍵付きの門扉はスタイリッシュなのに人を寄せ付けない厳しさを感じる 玄関を入ると一斉に点灯する照明に肩が跳ね、一瞬で身体が強張るのが分かった 「なに、緊張してるの?」 「・・・」 答えても良いか考える私を引き寄せた常務は 「もう話しても良いよ」 首を傾けて唇を塞いできた 「・・・んっ・・・ぁ・・・っ」 これじゃあなにも言えない 性急に深くなるそれに合わせるだけで必死で 少し背伸びしてしまう軽薄な自分と 溺れてしまいたいという欲深い思いが拒むことすら頭から消した
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