許されない壁

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息が乱れるほどの口付けが解かれると、名残惜しむみたいに二人を銀の糸が繋いで・・・切れた 「おいで」 手を引かれて通されたのは 人の気配が感じられないリビングルームだった 「あ、の」 「何飲む?」 「えっと」 「あゆ、コーヒーいれてよ」 「はい」 聞いてきた割にオネダリも上手 それは会社で嫌と言うほど見てきたから驚きはしない カウンターキッチンまで また手を引かれて移動する 「豆はここ、サーバーとカップはここ、他に聞きたいことは?」 「大丈夫です」 「そう?じゃあ任せたよ」 「はい」 会社と同じコーヒーメーカーに安心して、カップを温める 全自動のコーヒーが落ちるまでの手持ち無沙汰に顔を上げると、ソファに座る常務が見えた 此処は、常務だけの家なのだろうか そう思う理由はカップボードに コーヒーカップとグラス以外のものが無いことと 使われた形跡のないクッキングヒーター 生活感のないモデルルームのような部屋に答えはなかった 「どうぞ」 「ありがと」 ソファ前のローテーブルに常務のコーヒーだけを置く 一人分しか用意しなかった私が トレーを戻すためにキッチンに戻ると 「あゆのは?」 顔をこちらに向けた常務はカップを持ち上げて見せた その仕草は八つも上に思えないほど可愛くも見えて 「私は、」 「あゆは?」 帰りますと口にするだけなのに、口籠もってしまった
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