演技力皆無の王妃がお人好しすぎて困る。

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 私にはお人好しの妻がいる。  人が良すぎて王妃としてはいささか心もとないが、家柄も教養もずば抜けている。それに人はいいが、バカではない。おっとりした雰囲気と穏やかな人柄は、人に警戒心を抱かせない。戦乱の世であれば王妃には不向きだが、太平の世であれば王の伴侶として素晴らしい人物だ。  私はこのルクセル王国の国王だ。先代が早逝したため、二十歳を迎える前から王座に就いている。国王には早すぎると言われることもあったが、持ち前の威圧感と多少の実力行使で押さえ込んだ。体格と武芸に恵まれた私は、冷徹な国王としての威厳と権威を十分に発揮していると思う。  その分、人との距離が開きがちだったため、それを補完してくれそうな女性を王妃に選びたかった。なにしろもう戦乱の世ではない。国を豊かに発展させるためには、多くの人々と良い関係を築く必要がある。  私が厳つい見た目で人に威圧感を与えてしまう分、穏やかで優しい女性が国母となれば、ちょうど釣り合いも取れるというものだ。  と、いろいろ国王らしい理由をつけてはいるが、実のところ私自身が彼女を気に入っている。  何せかわいい。すごくかわいい。世界一かわいい。  少しふっくらとした容姿も、ほわほわクセのある髪も、いつもふんわり笑っているところも、おっとりした話し方も、目が合うといまだに恥ずかしそうに照れるのも、からかうとすぐに本気にしてしまうところも全部かわいい。  さすがにそんなことは国王の立場としては言えないので、あくまで理性的に合理的に判断した結果だと何食わぬ顔で決議を取って、晴れて夫婦となったのだ。簡単に人を信じるし、あっという間に騙されそうなのは事実だが、そんな気配でもあろうものなら、事前に私が排除する。  太平の世、万歳だ。私が統治している間は、他国と戦争はしないと決めている。彼女が王妃にふさわしくない世の中など、絶対にあってはならない。
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