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おぼつかない脚。
それでも左脚を前に踏み出していた。
空を自由に飛ぶことは出来なくても、地を這うことは出来る。
そう思いながら、絵美はゆっくりと歩みを進めた。
一歩目を歩く。
二歩目に右脚を出す。
できた。
これを繰り返すだけなのだ。
こんなことは子供だってできる。
それくらい簡単なことなんだと自分に言い聞かせて、徐々にでも確実に前に進む事を繰り返そうとした。
左脚を前にし体重を預け過ぎると、左膝が折れた。
身体全体が崩壊したように崩れ、絵美はその場に倒れた。
地に身体を打ち付けた。
立ち上がらないと。
絵美は立ち上がろうとするが、左脚は動かない。
当たり前だと絵美は理解すると、右脚に力を入れる。右脚一本で全体重を支え、立ち上がろうとしたが、支えきれずにまた倒れる。
悔しくて涙を流した。
もう一度と立ち上がりかけた所で、誰かの声を聞いた気がした。
気になって声の方を振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。
年の頃は20代前半だろうか。
背は高くなく小柄で細身だが、しっかりと筋肉が付いた体つきをしていた。
短く刈った髪に精力的な印象を受ける男性だ。
男性は心配そうな表情を浮かべると、絵美の元に駆け寄ってきた。
絵美は慌てて立ち上がると、左足を引き摺りながらも、その場から離れようとした。
しかし、男性の方は逆に近づいてくる。
やがて、彼は絵美の前で止まると声を掛けてきた。
「福井さん」
聞き覚えのある声で名前を呼ばれたので、絵美は思わず振り向いてしまった。
「石田君」
絵美は男性・石田翼の名を呼んだ。
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