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二年前とかわらず、その一LDKの部屋は清潔でホコリ一つ落ちていなかった。花南はインテリアコーディネーターの資格を持っている。北欧製の椅子に有名ブランドの銀色ソファ。シックな茶系のラグに磨き上げられた書棚。マスクを外したとたんアロマ油の清涼な香りがした。
「おお綺麗にしてるじゃん。えらーい」
「えー、最近なんか掃除してないと気持ちが落ちつかないだけっていうか」
あいかわらず居心地のいい空間だなと衣吹は感心する。机の上が整然としている人間は頭の中も整理整頓されてるって言うけれど、部屋も机と同じだ。ただ以前来た時には存在した男の気配だけは、きれいさっぱり消えていた。
「衣吹、うちに来るの、ずいぶん久しぶりだよねぇ」
「まあ世の中コロナ禍だったしね」
「でも衣吹ってマスクしてても、いつも華やかで格好いいよぅ。友達として誇らしい」
あんたは酔いにまかせてなにを言ってるんだ、と衣吹は苦笑した。私は地黒だし化粧で色々とごまかしてこの程度だぞ。そういうのは自分の顔を鏡で見てから言ってほしい。
「お茶入れるから、適当にくつろいでてー」
かいがいしく立ち回る花南の背中を見てぼんやり思う。そうだ。この部屋に寄りつかなくなったのはあの男臭さに気おされたせいだった。
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