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部屋に入ればどうしたって、風祭と花南がここでどうすごしているのか想像してしまう。でもそれはスマホの広告会社が無遠慮に送りつけてくる、あられもない画像を見た時の不快感に酷似していて。
だから衣吹は花南と距離を取った。独り身の女というものは、そうやって男のいる女に勝手に気を遣い、自然と疎遠になっていくものなのである。
寂しくないと言えば嘘になる。けれど衣吹はそれでまったくいいと思っている。なぜって男とちがい女は変態する。少女から女へ、妻から母へ。友情の質は揺らがなくてもその過程で距離感は変わるのだ。
「あれえ、緑茶が切れてたかも。冷たい麦茶でいいかなー、衣吹」
「なんでもいいよ」
なのになぁ。戸惑うんだよなぁ。いきなりこちら側に戻って来ましたと宣言されても。
「ねえ、風祭さんのなにが気に食わなかったの。なにも別れなくたって良かったんじゃ」
聞かずにはいられなかった。だって彼は背が高くて知的な眼鏡男子でスパダリで。いつもびしっと高そうなスーツを着こなしていて、廊下ですれちがうたび、感じの良い笑顔で爽やかに会釈してくる人だった。
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