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「亮の人生に私の気持ちは反映されない。私は良き妻やら母になって彼を伴走する役で、その役は最初からはっきりわりふられてる。彼の中でそれは唯一無二の掟だから、私が口を出す権利はないの」
あの人にはわからないのだと花南は言う。理解できない。妻になろうが母になろうが、私は私を手放したくないことを。私は個の人間であって、何歳になってもやりたいことを自由にやりたい。世の男たちが普通にそうであるように。
「……だからあんたは、自分の貯金を使いたいところに使ったってわけ?」
少しとがめるような口調になってしまった。
「だって衣吹。私はもともと式なんて挙げなくてもいいって言ってたんだよ」
花南は抵抗するように口をとがらせる。そうしたら風祭は烈火のごとく怒ったらしい。
「亮にとって結婚はケジメで、式を挙げて周囲に認めてもらって初めて成立するし、そこで誓ったことを生涯貫いていくのが当然ってスタンスなんだ」
その式が疫病のせいで何度も繰り延べになった。人生設計を練り直さなければならなくなったと本人はいたくご立腹だったらしい。
「あんたさあ。言いたかないけど、その式代をどうにかしちゃったわけ」
「うん」
うんって。そりゃ風祭も怒るだろう。
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