52人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんでそんなことしたのよ? いいじゃん、そこいらのだらしない男どもより、風祭さんのが全然まっとうで」
「うん。そうなんだけど、ただ……」
花南はうつむく。そうやって亮はなんでも仕切って決めて、自分のいいようにする。か弱い女性である花南は自分についてくるって信じていて、それを正当で完璧な愛の形だと思っている。
「――だからたとえ私がなにか意見したり反発しても、亮は全力の正論で否定してくるの」
彼はその正しさが危ういものだとは理解しない。世の中に正論は無数に存在するとも思わない。なぜって優秀で強い個である自分の意志だけが、唯一正当でいっとう価値あるものだから。
「ぶっちゃけ夜もそんなだったんだ」
花南は上目遣いになって衣吹を見やった。
「優しくしてくれるし上手いんだけど、リードするのはいつもむこうなんだよね」
ごめんね、いきなりこんな話をして、と相手は無力感に満ちたため息をつく。
「いいよ別に。なんでも聞くって言ったでしょ。いいから全部ぶちまけなよ」
気づけば身を乗り出してそう言っていた。花南にこんな申し訳なさそうな顔をさせたくない。すると衣吹の口調にはげまされたか、花南は気持ちを噛みしめるように語り出した。
最初のコメントを投稿しよう!