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慌てて立ち上がったけれど、衣吹が部屋に入った時にはもう、花南はベッドにうつぶせになったまま酒臭い寝息をたてていた。しかたなくストッキングを脱がせ、シャツの上からブラを緩めてやる。笑える。これじゃ私、まるで寝こみを襲う痴漢みたいだ。乱れた姿を押し隠すようにふとんをかけてやった。
「シャワーとあんたの寝間着、勝手に使うからね」
友の耳元で言いさして寝室を出る。それからあらためてリビングを見回す。
シンプルな木枠の壁かけ時計。本のつまったダイニングボードの上には空っぽの水槽。金魚のいなくなったそれは、アクセサリーの木片や砂利まできちんと洗って渇かされていて、まるで仏壇のようだった。
ヒラヒラと彗星のような尾をなびかせて泳ぐ魚の幻をしばしそこに思い描いてから、衣吹はふと片隅につまれたスクラップブックに目を止めた。
なんだろう。整然と静まりかえった部屋の中で、その一角だけがひどく乱雑な音をたてているような。
「花南ー、ちょっと無断で拝見するよー」
自然と手が伸びてページを開いていた。
「なに、これ……」
とたんに渇いた声が出る。
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