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「なんていうかな。『真綿で包むような』って言葉があるでしょ」
「うん」
「本当にその時の彼のハグとキスで、私はすごく安心したんだよ。ああ私、とても大切に想われてるんだ、ユーリィとならこの先へ進んでもいい。私も彼をもっと好きになりたいってよくわかったから」
あれは嬉しかったなぁ、などとひとりごちている。几帳面というか素直なのか。この子はどうもこういう感覚が海外帰りだよなと衣吹はあきれた。
「なるほどねぇ。それであんたも金魚を飼ったのか。ユーリィってば憎いねぇ」
「ちょっ、茶化さないで」
「いいな、甘酸っぱい初恋。ごちそうさまでーす。お、なにこの写真」
衣吹は目に入った一枚を手に取った。
「美少年が雨に濡れそぼっちゃって。いくつの時? しっかしこの子、本当に俳優みたい。綺麗な顔ー」
「ああそれ……」
すると花南はふっと瞳を遠くした。
「中三の時だよ。雨の夜だった。ユーリィがいきなり訪ねてきて『話がある』って」
そのただならぬ様子に異変を感じて外に出たら突然、別れを告げられたのだという。親がウクライナに帰郷することになったから――と。
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