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「夕飯時にも『本当は僕は、男が女性に酒を勧めるのだってどうかと思ってる』とか言って。君が飲みたいのは、君の自由だから別にいいけどって」
「へえぇ。すごい。爪の垢煎じて飲ませてやりたい、おもに太一に」
「ふふ、太一君だって悪気はないでしょうよ。ただこっちだって背筋を正さなきゃって思うのよ、男性からそんなふうにされたら。そこがすごく不思議」
なんだか感慨深げに花南は言った。
「とにかくユーリィは『女性は大切に扱うものだ』って教育されて大人になった人だから」
彼は道でもつねに歩調を合わせた。まっすぐ目を見て話を聞き、時には質問したりしながら相手を理解しようと務めた。離れていた時間を埋めようとするその真摯で誠実な態度に、花南はすっかり感服したという。
「人間としてこの人は素敵だな、とっても信頼できるって思えたの」
「うーん。正攻法万歳ってかんじだな」
「そう。彼と話していると男女の駆け引きとか探り合いとか、くだらないなぁ、小さいなって思わされる」
そうしてホテルまで送ってくれるたび、彼は鮮やかに自らの身を盾に扉を開いて囁いた。
――おやすみ、カナ。良い夢を。
「うっ。それも、もちろん真顔で言うんでしょ」
「そうだよ」
「あああ、あんたの王子様って顔だけじゃなくて、本当に内面まで王子なんだね」
「そうかもしれない」
花南は深いため息をついた。
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