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――ここだけの話だけど桜井さんってば、結婚式費用を大半、怪しい海外のオークションにつぎこんじゃったらしいじゃんか。
ようするに太一は衣吹に探りを入れてこいと言いに来たのだ。くだらない、ゴシップ好きな男。T大卒が聞いて呆れる。あんたに花南のなにがわかる。知ってどうするよ。
胸内のモヤモヤを笑顔のオブラートで包み隠し、じゃれつく犬のような男を体よく追い払ってまもなく、花南当人からラインが入った。
――衣吹、今夜空いてる? 飲みたい気分なの。七時半にいつもの店で待ってるから。
桜井花南とはバイト先で知り合った仲だ。二人とも大学図書館で働いていた。同じ学年、学部なのにあまり授業で鉢合わせないのを不審に思って尋ねたところ、彼女は教授推薦でいくつかの授業を飛び級していると言った。
聞けば生まれてから十年ほどウィーンに住んでいて、第二外国語までならネイティブ並に話せるとか。だから必修の基礎講座を三、四年の演習授業にふりかえさせられたそうだ。
飛び級。なんだかハイソな響き。そう評したら、本人はばっさりその感情を否定した。
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