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「ユーリィにサラッとそう言われた時にね。私も、しまった、やられたなって思ったんだ」
「やられた?」
「だって彼の目が。月光を浴びてキラキラしてて、本当に宝石みたいで……」
花南は少女のように両手で頬を押さえると、
「ああ平凡で取るに足らない私の人生にも、こんな奇跡って起こるんだなぁって。そういえばユーリィっていつもこういう感動をくれる人だったよなぁって」
ユーリィは私に言葉以上のものをくれてたの。彼から認められて大事にされたから、私も自分は価値ある人間なんだって信じられるようになったんだと思う、と花南はつぶやいた。
けれど夢のような邂逅の時はあっという間に過ぎ去ってしまった。
――カナ。君はきっとこれから先も、ここより東欧まで旅してはこないだろうね。
別れの日の朝、彼は空港まで見送りにやってくると花南を抱きしめてキスをした。それは深い親愛の情がこもった口づけで、静かで揺るぎなかった。彼はそれから哀しい目をして言ったのだという。
――約束するよ、そのうち僕は君に祖国の風景画を描いて送る。見せたいんだ、僕の故郷を。だからどうか連絡先を教えて。
「で、その後もたまに衛星電話をしてたんだ。絵は結局、一度も送られてこなかったけど」
花南はまた深みのある笑みを唇に乗せた。
「私にとってユーリィは、やっぱり別格な存在だったんだと思う。亮と暮らし始めてからもそこは揺るがなかった……」
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