14/21
前へ
/48ページ
次へ
 ――カナ、仕事はどう。元気にしてる。そちらの疫病は落ちついているかい。  昨年の秋も、いつもみたいにささやかな近況を報告しあった。こちらの小学生はまだオンライン授業だよとか、夏冬オリンピック続きなんて驚きだよねとか。そうやってしばらく歓談したあと、彼はおもむろにPC画面向こうで手を上げて話を止めたのだった。  ――ちょっといいかな、カナ。今日は一つ、どうしても話しておきたいことがあって。  ――えっ、なぁに。  ――聞いてくれる。僕の信念の話なんだ。  ――ユーリィ、いきなりどうしたの。  とまどう花南に、青年はふんわり笑いかけたという。  ――ここのところ、僕はつねづね思ってたんだ。科学技術や経済を発展させてきたように、人の心もまた進化するものだって。  ――人の心が進化するの?  ――うん。たとえば昔の人たちみたいな植民地政策とか世界大戦、ああいう大きな分断の歴史をもう、僕たちはくり返さないだろう。  ――そうかな。そうかもね。  ――だって、よりよい方向へ向かうために、みんなでなにをすべきか考えられる。そういう教育や文化を、僕たち世代は国の枠を()えて共有してる。こうやって遠く離れた僕たちがつながれたようにね。  ――うん。  ――だからきっと細かい(あつ)(れき)を乗り()えながらも、これからの未来は(そう)じてだんだん明るいほうへ進んで行くんだよ。 「……あの時ユーリィはなにか覚悟を決めたみたいに(ほほ)()んでいるだけで、私は彼が本当はなにを言いたいのか、全然わからなかった。まさかその数ヶ月後に、あんな戦争が起きるなんて……っ」  ただならぬ声色に衣吹が目をやると、花南(かな)の指先はこまかく(ふる)えていた。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加