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それでも花南はわかってほしかったんだ。一番近しい婚約者の風祭にこそ、崩れそうになる心を支えてほしかった。どうしても送金しなければならなかった気持ちを受け入れてもらいたかった。
でも風祭はそれを拒否した。
彼の正義は未来の伴侶の勝手を許さない。なぜなら花南はもはや自分の女という所有物だから。それで婚約者を矯正しようとした。押さえつけて無理矢理、心をねじ曲げようとしたのだ。
「……別れるしかなかったんだよね」
花南は苦しそうに口をゆがめる。
「私はユーリィのまなざしを忘れられない。正直言って今の自分の生活より、彼の命のが大事だもん」
「花南……」
「私は亮に何度ぶたれたってしかたがない。この先ユーリィと一生逢えなくたってかまわない。ただ彼には元気に生きのびていてほしい。そう願うのを、どうしてもまちがってるとは思えない」
ねえ衣吹。もしユーリィが従軍していたらどうしよう。最前線に送られていたら。彼は責任感の強い人だもの、自ら志願しているかもしれない。そう言って花南は声を詰まらせた。
「神様仏様。お願いです。誰でもいいから、どうかユーリィを守って下さい――っ」
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