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二ヶ月後。七月初旬の休日。
大変なことが起きたと花南から呼び出しを受けたので、衣吹は性懲りもなくまた花南を訪ねた。こんなに他人にかまけてばかりいたら我が身が危うい、独身貴族へ直行人生じゃんかと思いながらも、結局は花南を放っておけない。女の友情だって、男に負けず劣らず強くて熱いものなのである。
しかし意外だ。なにがって、花南のリクエストに応えて駅ビルで買った昼御飯のしゅうまい弁当がけっこう重い。二人分でこれほど重たい弁当なんて、最近なかなかお見かけしない気がする。
どこもかしこもステルス値上げの夏だというのに、この弁当屋はなかなかに豪儀である。いろいろと感心した。レストランにせよ弁当にせよ、派手さこそないが、花南はだいたい美味しい食べ物を外さない女だ。
そして食欲とは生きる力そのものだ。だからこうやってちゃんと飲んで食べて寝てさえいれば、あの子の身体はもう閉塞感なんかに負けないだろう。
「花南ー、来たよ。お邪魔しまーす」
Tシャツにジーンズ生地のガウチョパンツというラフな格好で衣吹が勢いよく玄関の戸を開くと、奥から髪をゆるく結い上げた女主人が顔を出した。
「いらっしゃい。暑かったでしょう。マスク外していいからね」
この友はろくに化粧もしていないのに、あいかわらず色白で清楚だ。今日は鼻眼鏡だけれど、それもまた可愛らしい。善い女。きらきら輝く女。あんたはじゅうぶん綺麗だよ。胸を張りな。衣吹は心の中で友にエールをおくる。
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