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――あんなの不条理システムだよ。だって演習取ってる先輩達は四単位もらえるのに、私はやった勉強を基礎講座にふりかえられちゃうんだから。同じことやって二単位しかもらえない、それってやっぱりおかしいでしょ。
頭の良さを自慢も卑下もしない。しかも他人の野次馬的興味をさらっとちがうベクトルに変換する。そんな機転の良さが花南の好ましいところだよなと思いながら裏通りに入り、インド料理屋の階段を上がった。
お洒落なイタリアンなどとちがって、エスニック店はどこか昭和的な退廃感がある。ぶっちゃけ壁紙が汚れていたり明かりがシャビィなのだけれど、そうした薄暗がりがきつい香辛料の香りと相まって、人肌めいた暖かさを感じさせるのはなぜなんだろう。
「ごめん衣吹。勝手に一人で飲んでましたー」
店奥のボックス席で、赤ワイン片手に花南が手を振る。後ろで軽く結い上げた長い艶髪、流れるような眉、ぱっちりした黒い瞳に長い睫。笑った唇からのぞく白く並んだ歯。きめの細かい艶肌。あいかわらずの綺麗目美人だ。
服装だって清楚な綿シャツに上品な巻きスカートで、特別目立つファッションじゃないのに上品で――まあこの子は東京生まれの山の手育ちだから。
「で? なんで飲みたい心境に?」
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