2/10
前へ
/48ページ
次へ
「……んで? わざわざ呼び出した理由は何」  弁当の袋を(わた)しながら問いかければ、花柄ワンピース姿の相手はこっちこっちと(しん)(みよう)に手招きした。 「ユーリィから連絡が来たの」  おおと思わず衣吹(いぶき)がうなると、花南(かな)はすばやくその手をつかんだ。そのまま引きずるようにリビングの中へ引き入れる。 「とにかく、見て」  そこはいつもの安らぎ空間。こざっぱりと掃除されて家具は(みが)かれ、小物もきっちり収納されていて(わる)()()ちしていない。  そんな片付け好きが(ゆい)(いつ)()()りにしていた書棚の上の(すい)(そう)も、今や影も形もなくなっている。よかった。どうやら愛魚の死に関してはふっきれたらしい。  ただ――代わりにそこへ鎮座していたのは、大型テレビより一回り大きい油絵だった。  独特の油の香りがぷんと鼻を突く。まず目に飛びこんできたのは明るい、幸せに満ちた黄色だった。 「これって向日葵(ひまわり)畑……?」 「ユーリィらしいよね。向日葵(ひまわり)ってウクライナの国花なんだよ」 「すごいじゃん……なにこの絵」  (きゆう)(りよう)の空は晴れ晴れと青い。ぽつりと遠くに(えが)かれているのは古い農家だろうか。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加