51人が本棚に入れています
本棚に追加
「……んで? わざわざ呼び出した理由は何」
弁当の袋を渡しながら問いかければ、花柄ワンピース姿の相手はこっちこっちと神妙に手招きした。
「ユーリィから連絡が来たの」
おおと思わず衣吹がうなると、花南はすばやくその手をつかんだ。そのまま引きずるようにリビングの中へ引き入れる。
「とにかく、見て」
そこはいつもの安らぎ空間。こざっぱりと掃除されて家具は磨かれ、小物もきっちり収納されていて悪目立ちしていない。
そんな片付け好きが唯一置き去りにしていた書棚の上の水槽も、今や影も形もなくなっている。よかった。どうやら愛魚の死に関してはふっきれたらしい。
ただ――代わりにそこへ鎮座していたのは、大型テレビより一回り大きい油絵だった。
独特の油の香りがぷんと鼻を突く。まず目に飛びこんできたのは明るい、幸せに満ちた黄色だった。
「これって向日葵畑……?」
「ユーリィらしいよね。向日葵ってウクライナの国花なんだよ」
「すごいじゃん……なにこの絵」
丘陵の空は晴れ晴れと青い。ぽつりと遠くに描かれているのは古い農家だろうか。
最初のコメントを投稿しよう!