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「……私ね、衣吹。ずっと彼のためになにかしなきゃって思ってた。彼を救わなきゃって」
感慨深げに花南は呟く。
「だけどむしろ救われたのは私のほうだった。この絵を見ていると不思議と心が和むの。ユーリィの笑顔に触れているみたいで。彼の腕に抱かれた時と同じぬくもりを感じる。ただ幸せだった時間、優しい言葉だけが、心の中に浮かんでくるの……」
私、あの人と出会えて良かった、と花南は心底嬉しそうに微笑んだ。
「この戦争が終わったら私、彼の国に行くつもり。彼は身動きとれないから。今度こそ私から逢いに行こうと思うんだ」
「花南……」
「もう一度、彼の声が聞きたい。あの綺麗な瞳を見てじかに話したい。この絵の場所にも行ってみたいし。ユーリィが私にとってなんなのか、ちゃんと確かめたい」
衣吹は吸いこまれるようにいつまでも絵を眺めている友の横顔を盗み見た。
――お願い、ユーリィ。どうか消えてしまわないで。
祈りにも似た切実な想いが、その華奢な全身から波打つように伝わってくる。たまらなくなって立ち上がるとリビングを横切り、無言でベランダの戸を開けた。
もわっと湿った熱風が肌にからみつく。かまわず外に飛び出し、カラカラと音を立てて戸を閉じる。とたんに盛大なため息が出た。
「は……」
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