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八階の眼下に広がるのは、ぬけるような青空とどこまでも続く人の街。遠くにかすむのは多摩の山々だろうか。
今年は六月から猛暑だったけれど、ここ一週間ほど異常な熱波はなりをひそめている。
やがて視界が歪んできて、熱いしずくが頬を伝った。衣吹は乱暴に手の甲でそれを払う。
やられた。あの向日葵。
あれはまぎれもなくラブレターだ。
だって裏側の字面よりずっと、あの無数に描かれた花々の熱量が、ひたむきにただ愛を語っているではないか。はっきりと彼の言葉まで聞こえてくるようだ。
――カナ。この世界に生まれてきてくれて、僕の前に現れてくれてありがとう。
ようやく再会できたのにまた遠い国へ帰っていく君を、あの時どうしても引きとめることはできなかったけど。この絵にだけは包み隠さず、本当の気持ちを描いておくよ。
あの夏、僕は確信したんだ。
僕は今でも君が好きだ。
ねえカナ。この先どんなに惨めで辛い目にあおうとも、僕は変わらず君を愛し続ける。いつかこの身が大地に還っても、祖国の花のように笑いかける。
だから君はたとえ僕がどうなろうとも、うつむかずに先へ進んでほしい。
もう悲しい話はうんざりなんだ。僕の愛する人には、この世の美しいものだけ信じ続けていてほしい。
大好きだよ。愛してる。この花の数ほど君を愛してる。愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる――。
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