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大きく息を吸って衣吹は思う。
シャイで情熱的な絵描きさん。あの絵にこめられたメッセージは、花南にちゃんと届いているよ。
彼女はあなたの向日葵を見てようやくすべてを理解したんだ。偶然を装ってあなたがわざわざウィーンまで出向いたことも。その後ずっと恋文めいた絵を送るか否か、逡巡し続けていたことも。
あなたにとって不幸だったのは、西の帝都にいるはずの相手が、いつのまにか東の最果ての島へ引きこんでしまっていたことだ。
鉄道を乗り継いだぐらいじゃたどりつけない遠くまでアプローチするか否か。迷い、ためらううちに、あなたの想い人は他の男と結婚の約束までしてしまった。だからあなたはおそらくあきらめかけたんだろう。それで絵を描くのをやめた。
でもね、あなたと花南はたぶん魂の深い部分で惹かれ合っている。幼馴染みだった昔から今にいたるまでずっと。
運命の赤い糸は切れずにつながっていたんだ。八千キロ以上の距離を超えて。
人は身体だけで愛し合う生き物じゃない。あなたたちはかなり不器用だけど、その心のありようはとても尊くて美しいと思う。うらやましいよ。誰もがこんなに優しく純粋に、ただ相手を想いやれるわけじゃないから。
だけどこの戦争は――どこを終着地としてむかっていくんだろう。
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