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陰鬱な苛立ちがこみあげてくる。洟をすすり、唇を噛みしめて衣吹は思った。
今、私がこうして泣いているのは、悲しいからじゃない。怒っているからだ。
そうだ腸が煮えくり返るほど、私は猛烈に腹を立てている。――この世の不条理に。
わかってるよ。昔から世界は理不尽の渦中にあるって。花南だって私だって、そんなことは重々知っている。だけど、やっぱりおかしいものはおかしいじゃないか。
「あああ、悔しいなぁ。なんにもできないっ」
衣吹は両拳を握りしめてベランダの手すりに押しつける。いや、あきらめちゃいけないんだ、こういうことは。
私も花南も無力じゃない。考え続けろ。見たくないものから目を背けて日常に埋没するな。ここで一人一人が思考を止めちゃダメなんだ。
「いいかげんにしろよ。命の無駄使いだ、戦争なんて。馬っ鹿じゃないの!」
悪言を吐き捨て、衣吹は奥歯を噛みしめた。押しつぶされるな。前をむけ。人がよりよい方向へ進化するには、これ以上友達が新たな悲しみを抱えないためには。私はなにをどうしたらいい。
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