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「だって、しかたないでしょ? 送金すれば、彼の助けになるってわかってるんだから」
「つまり、なに。他の男が原因ってこと?」
問いかけるとはたして花南はうなずく。かーん。衣吹の頭の中でバットの金属音が鳴った。貢いだのかよ別の男に。なんで。毎日あくせく働いて節約して、ようやく勝ち得たものを、どうしてそんなに簡単に手放せるんだ。
「いちおう絵を買ったんだけどねぇ」
花南はまだ嬉々として酒を飲み続けている。
「どんな絵かなんてわからないし、届くかどうかも怪しいんだけどぉ。発送されるかだって今、微妙な状況だから」
「……なんでそんな怪しい話に乗ったのっ」
「えー、やっぱり怪しいか。そうかそうか」
なんなの馬鹿なのあんたは。怒鳴りつけたかったけれどすぐに思いなおした。いや、花南は馬鹿じゃない。いつだって思慮深くて慎重で、学校でも会社でもミスなんかした記憶がない。
だからあの女子にまったくなびかなかった有能な風祭亮が、花南を花嫁にと選んだのだ。彼の選択は慧眼だったと思っている。でもじゃあこの状況は。原因はなんだ。わからない。今夜は花南がまったく知らない人間に見える。
「あっ、ごはん来た。とりあえず食べよ、お腹ぺこぺこー。この店、コロナ対応で一時間半しかいられないって。ねえ今日うちに泊まっていく?」
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