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自室のドアを開けると、二段ベッドの上には毛布のかたまりが見えた。
「へーい、あーゆーうぇいくあーっぷ?」
ユノがわざとらしい発音の英語で話しかけると、くぐもった声の返事が返ってくる。
「I'm gonna get up ...」
この口調は、一切起きるつもりがないときだ。けれど、ユノほど長年ルームメイトをやっていれば、起こし方なんて自ずと覚えてくる。
「あいはぶあんあめりかの、どんちゅーうぉんでぃす?」
ユノがアメリカーノのグラスを差し出しながら再び声をかけると、リアムはやっと身体を起こし、端正な顔をしかめながらグラスを受け取り、掠れた声で言った。
「お前せっかく発音綺麗なんだからちゃんと使えよ」
「ここぞっていうときに使うからいいんだよ」
「下手になっても知らねーからな」
リアムはアメリカーノを一口飲むと、急に目を開いて頭を振った。
アメリカーノが好きな人なら知ってる、この頭がスカッとする感覚。らしい。ユノはあまり好きじゃないので体感したことはないが、グループではユノ以外の全員がアメリカーノ大好き芸人なので、度々話は聞いている。
「それで?ユノがこんな時間に起きてるなんて珍しいけど」
「……それさ、みんなに言われるんだけど、そんなに?」
「そんなにだろ。スケジュールがない日でお前が起きてる午前とかファンタジー」
「ひどい」
「そう思うなら日頃の行いを正しな」
うちのグループで唯一の外国人メンバー、リアム。アメリカ出身だけれど、アメリカーノが好きになったのは韓国に来てから、という大して面白くない鉄板ネタを持っている。
リアムとは練習生のときからの年季の入ったルームメイトで、昔からお互いなんだって言い合える仲。年功序列が厳しい韓国で、アメリカから来て不安いっぱいだったリアムに最初に話しかけたのが同い年であるユノだったことも大きいだろう。気を遣う必要がないので、ユノはリアムにあっという間に懐かれたのだ。今でも、話の内容によってはジュウォンよりも相談しやすい場合もあるくらいの、いわゆる親友だ。
「会社に呼ばれて、ちょっとジュウォニヒョンと行ってきたんだけどさ」
「へえ」
「……まあ、内容は、こんど言うわ」
「おっけー」
あっという間に空になったアメリカーノのグラスを持って、リアムは部屋から長い足で出ていく。
「どこ行くの?」
「朝ごはん食べてくる」
待って、俺も食べてない。
度が過ぎた空腹で逆に何も入らない状態になっていることに初めて気がついたユノは、慌ててリアムを追いかけた。
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