10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
儀式当日
遂に儀式の日になった。
和泉は夜の儀式まで親しい人の誰とも会えなかった。昼ごはんを終えたあたりから支度が始まって大忙しだったし、家の付き人は屋敷から一歩も出てはいけない、と言うからだ。
付き人は和泉の父に忠実なので
おそらく父の意向だろうと思っていた。
「早く晴れ着を!ほれ、急いで!」
「巫様に被せる冠はどれだい!」
「早く髪を結って装飾を施しなさい!!」
「はい!!」
色々な人の声が混じって焦っているのが、よくわかる。ドタバタと忙しなく動く足音がなんとなく耳障りで少し腹立たしかった。
「早くしてほしいな、私は早く父上と母上に挨拶しなくては。」
「はい、巫様!」
巫という呼ばれ方はあまり好きではなかった。私の村では巫は神の妻になるもの、という意味だが生贄と妻では全く意味が異なるからだ。
この儀式や鬼神様を特に信仰するものは巫を生贄と捉えない。
「巫様、赤の紅と狐花はどこに施しましょう?」
「ああ、紅は唇と目尻に、狐花は耳の上に施してほしい。」
「承知致しました。」
見た目だけなら本当に高貴なお嬢様、と言ったところだが、白神家の財力は昔からの多大な領地のおかげなので私たちの代には無縁の話である。
ただ意志を引き継ぐ。
閉鎖的な村の因習も、そうだ。
こんな崩れかけの村一つでもこの儀式が絶えず続けてこられたのは間違いなく、恐れ多い鬼神様の信仰が村の常識となって根強く残ったからだろう。
「狐花....って村の花ですよね。特に鬼神神社によく生えていてとても美しいけれど、異名も多くて不吉な存在ともされるのになぜ村の象徴なんでしょう....」
「私もそれはずっと思ってた。この村の象徴となる花なのに....」
「さすが、巫様。村のことを、よく調べておいでですね。」
「廃れた命だけど一応巫の命だし、この村をしきる、白神家の娘ですから。使命は果たすし、村のことを人一倍知る義務がある.....」
「さようですか。さすがは白神家の巫の御霊......。」
この後に及んでうやうやしく接する付き人に嫌気がさして、わざと刺々しく言い放った。
「お褒めの言葉は結構ですよ。それより、支度が終わったようですね.....。」
付き人は、そんなことも全く気にしない素振りで私に言う。
「はい。それでは参りましょうか。」
最初のコメントを投稿しよう!