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12月10日。 期末テストが終わり、 あとは冬休みを待つだけの去年とは 心境が違っていた。 冬休みが始まった早々に訪れるのは、 岸野の思い描くクリスマスデート。 佐橋が選ばれても、もう後悔はなかった。 クリスマスまでの約2週間。 佐橋は、焦れた気持ちでいるのだろう。 何かにつけて彼に近づき、 積極的に話しかけているのを見て、 彼は僕にどういうタイミングで 返事をしてくるのだろうかと気になった。 その日の放課後。 日直で職員室に行く用事があり、 ひとり帰りが遅くなった僕は、 教室に向かう渡り廊下を歩いていた。 階段を上りすぐの教室が、 僕たちのクラスの2年A組だったが、 階段の踊り場で彼と佐橋が話しているのを 見て、足を止めた。 「だから、ごめんって言ってるじゃない」 珍しく彼が、 感情を露わにした物言いをしている。 不思議に思い、 声をかけようと一歩踏み出した瞬間。 怒った佐橋が、彼を突き飛ばした。 「うわっ」 「危ないっ」 足を踏み外し宙に浮いた彼と、 階段を駆け上がり、 彼を抱きとめようと手を伸ばした僕の 動きが重なった。 どんっと音を立てて、 彼の背中が僕の胸に当たり、痛みを堪えた。 何とか階段から落ちることなく、 彼を助けることに成功した僕は、 痛む胸を押さえながら、佐橋を睨んだ。 「お前、やっていいことと悪いことの区別が つかないのかよ」 言われた佐橋は怯みもせず、反論した。 「そんな時まで、いい人気取りなんだな」 階段を降りてきた佐橋は、 突き飛ばされてまだ動揺している 彼の肩にそっと触れて、言葉を続けた。 「どうぞお幸せに」 佐橋が去っていき、彼と2人きりになった。 「何があったの」 今度は僕が、優しく彼の肩を撫でた。 「お幸せにって、何なの」 「川瀬くん」 彼はポケットからスマホを取り出し、 僕の目の前に差し出して来た。 スマホの待受画面を見て、目を見張った。 「これは」 彼を見上げながら、次の言葉を失った。 僕が目にしたのは、 1ヶ月前にあった文化祭で、 秋津が撮ったと思われる僕の写真だった。 「佐橋くんにこれを見られて、さっきまで 問い詰められてた。佐橋くんとは付き合え ない。僕が好きなのは川瀬くんだって、何度も伝えて謝ったのに、許してもらえなくて。 川瀬くん、助けてくれてありがとう。 胸、まだ痛い?大丈夫?」 「大丈夫だけど、え?いつから僕のことを」 「川瀬くんに出会った今年の春からいいなあ って思ってた。冷静で優しいところに惹かれたけど、それは恋心なのかはわからなくて。 でも川瀬くんが僕のクリスマスデート獲得に 参戦するって言ってくれた時、すごく嬉しくて。ああやっぱり好きだって思ったんだ」 「そうだったのか」 「もっといいシチュエーションで告白した かったけど、僕と付き合ってくれる?」 「ああ、もちろん。喜んで」 彼の手を取り、強く握りしめた。 「いつも一緒にいような」 クリスマスまで、あと15日。 そんなタイミングで、彼と両思いになった。 彼との初めてのデート、 そして初めてのキスが確約されたことに 喜びを感じながら、彼を抱きしめた。 「ホテルバイキングしたらどこに行きたい? 岸野の望みを叶えるよ」 僕の胸の中で、彼が小さく笑った。 「どうしようかな」 ああ、かわいすぎる。 好きになって良かったと心から思った。 そんな彼との 初めてのデートとキスまでの顛末は、 また改めて。
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