1.久しぶりの教室で

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1.久しぶりの教室で

「三十九度の熱って、どんな感じだった?」  夜の十時。スマホからは聞きなれた祐介の声。  僕達は一ヶ月前の四月に中学三年生になったばかりで、去年に引き続き同じクラスになった。 「なんかグルグルして気持ち悪かった」 「へえ」  聞いてきたのは祐介なのに興味なさげな声。  でもそれはお互い様で、僕の方にも祐介に聞きたいことがあった。 「それよりさ、祐介。僕が風邪で休んでいる間に席替えがあったじゃん。僕、どこの席になった?」 「なんでそんなことを俺が知ってなくちゃいけないんだ」  僕が休んでいる間、プリントやノートを毎日メールで届けてくれたのと同一人物だと思えない不愛想な言葉。  僕はそっと息を吸って、祐介に訊いてみた。 「祐介は頭良いからさ、僕の席ぐらいなら憶えてるよね?」  スマホの向こうから、ふん、と祐介の鼻息が聞こえた。 「真ん中の列、前から二番目」 「なにそれ最悪」  真ん中の列、前から二番目。  教卓に立つ先生から見て最も指しやすい席。   「あきらめろ、翔真は先生のお気に入りなんだ」  もったいぶった祐介の声を聞きながら、僕は脱力した。 *  次の日の朝、久しぶりに教室に入った僕は、軽く溜息をつきながら祐介に聞いていた自分の席に座った。  後ろを見ると祐介は廊下側の後ろの席にいて、「深海の生物」図鑑を読んでいた。あそこは教室の中でいちばん目立たない席だ。  僕の視線に気づいた祐介がこっちを見てニヤリと笑う。なんか腹立つ。  前に向き直ると、空いたままの前の席が気になった。  いちばん人気がない真ん中の列の一番前。もうHR(ホームルーム)が始まるのに誰も来ていない。誰の席だろう。  僕の隣の席では、几帳面系男子の中島が教科書とノートの角をしっかり合わせようと奮闘していた。その中島に聞こうとして、だけどその前に教室の前扉が勢いよく開き、担任の木原先生が入ってきた。 「お、田中、ようやく学校に来たな」  僕はひょこん、と座ったままで頭を下げた。 「これでまだ学校に来ていないのは佐原だけか。佐原は今日病院に行ってから来るそうだ」  佐原さんも僕と同じく風邪をひいて休んでいたのか。  去年まで隣のクラスだった大人しめの女の子の顔を思い出す。じゃあ僕の前の席は佐原さんか。  病気で休んでいた二人が揃ってこんな席。  クラスの運営に問題があるのではないでショウカ。  僕はガハハと笑う木原先生を至近距離で見上げながら、そう思った。
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