或る愛の証明

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 宮内は天体観測が趣味だった。都内でも星を眺められる場所に建つ、父親の病院の屋上に自分の天体望遠鏡を置いていた。  そこを訪れたことが二度ある。  一度目は中学一年生の冬。ある日、宮内はやたらそわそわしていた。聞けば今夜は流星群が見られるという。話すうちに一緒に見ることになった。  午後九時、私は病院を訪れた。 「ふたご座流星群は毎年この時期に見られるんだ。一晩に見られる流星の数が年間最大なんだ」 「毎年見られるのにそんなに興奮するの」 「上城、星見たことないだろ」  望遠鏡の準備をしながら彼は呆れたように首を横に振った。  宮内は望遠鏡で明るい星を見つけると私に覗かせた。南の空。シリウス、プロキオン、ベテルギウスが作る冬の大三角。名前はよく聞くオリオン座。六つの一等星を結ぶと浮かび上がる、冬のダイヤモンドと呼ばれる六角形。  今見ている星の光は数年前のものだと彼は語った。 「あの星は地球から8.7光年離れてる。光が地球に到達するまでに8.7年かかる」 「そんなに? 光がこの世で最も速いんでしょ」 「それだけ遠くにあるんだろうな」  屋上の床に毛布を敷いて寝転がり私たちは流星を待った。  冷えた空気の中、紺碧の夜空に散りばめられた無数の星を眺めていると自分がちっぽけな存在に感じられて不思議と心が落ち着いた。  次に気がついたとき、毛布にくるまって眠る私に宮内が叫んでいた。 「上城、見て!」  私たちの真上から流星が降り注いでいた。星が流れているのは宇宙空間で、そんなわけはないのに今にも足下に灼熱の塊が落ちてくるんじゃないかという妄想に囚われた。 「宮内! これは何年前の光?」 「流星はせいぜい地球の100km圏内で起きてるんだ。今だよ」  彼は笑った。  以来、ときどき夜更かしして空を眺めるようになった。
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