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スプーン
「どうか、幸せをたくさん掬って下さい」
天使は僕が生まれた瞬間、幸福を掬うことのできる魔法のスプーンを授けてくれた。
だが時が経過し、僕は純粋だった赤ん坊から大人になってしまった――。
†
「どうして私の言うことが分からないの?」
「君は世間とズレてるんだよッ!」
「すみません。ごめんなさい」
僕は時代や世間の目に流されて、本当の自分を見失ってしまった。
「よく出来てる! やればできる子!」
「君、最近調子いいみたいだね。仲間との調和がとれてきていると高評価だよ。この調子で頼むぞ」
「はい!」
手のひら返しの言葉に安堵する僕は、仮面を被った大人達に笑顔を見せる。だけど、僕の中にいる本当の僕は泣いていた。
まるで本心を隠し、偽りの自分で生きているようだ。
いつしか、僕の魔法のスプーンはどんどん錆びていった。
それはまるで、錆び付いていくハートのように思える。
僕のエゴや欲望や思考で生きてゆくたび、偽りの自分を演じるたびに、魔法のスプーンは徐々に形を変えていくように思えた。
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