おまけ ハルユズの夏~どっちが甘くて大きいの~

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おまけ ハルユズの夏~どっちが甘くて大きいの~

「あっちぃ。お邪魔しまーすってあれ、ゆずー、いるー?」 「……いない……」 「いないヤツには、アイスあげねぇよ?」 「……いる……」  晴太は満足げに笑うと、勝手知ったる柚月の家の洗面所で手を洗い、台所へ行って二人分の小皿を取り出した。  高校の頃よりだいぶ明るくなった柚月だけれど、夏は苦手だと言って、サッカーで身体を鍛えていた晴太に比べると格段に引きこもりがちになる。  二人でどこか旅行にでも行こうかなんて話も出たけれど、あまり期待しない方がよさそうだ。そのあたりは柚月本人も気にしているだろうから、晴太は努めていつもと同じテンションで過ごすよう心掛けている。 「めちゃくちゃ久しぶり。ホームアイスなんて」 「だろ? スタンダードにバニラ買ってきたぜ」  怠そうな顔で部屋から出てきた柚月も、テーブルの上の冷たくて甘い食べ物を見れば、途端に表情を緩ませる。  高校の頃なんてあんなに人を寄せ付けない空気を出してたのになぁ。今じゃヘソ天で寝転ぶ猫みたいだ、と晴太は思う。 「晴太」 「何だよ」 「お前のほうがアイスでかくね?」 「んなこたねぇよ。どっちも同じスプーンで同じだけすくったし」 「いいや、お前の方が盛りがデカい」 「んじゃ取り替えたらいいだろ、ほら」  柚月の小さな我儘には慣れている。猫のツンデレみたいなもんだ。晴太が自分の小皿を柚月の前に置くと、 「こんなことしてる間に溶けちゃったじゃん」と、柚月がまた小皿を入れ替える。どっちも同じだっての。 「どっちでもいいよ、ほら食うぞ」  無理やり柚月にスプーンを持たせると、晴太は小皿に口をつけて、溶け出したアイスの液体部分をずず、と吸った。  けれど、ホームアイスを喜んでいたはずの柚月は、スプーンを手にしたまま動かない。 「ゆず、何やってんの。マジで溶けんぞ?」  さすがの晴太も少しだけ言葉に棘を含ませてしまう。暑い中溶けないようにと、全力で自転車を漕いで来たんだ。柚月の喜ぶ顔が見たいから。 「晴太」  ミルク色の液体にスプーンを浸しながら、柚月が口を開いた。 「あ?」 「あのさ」 「だから何だよ」 「……大学卒業したらさ、一緒に住まね? そしたら、いつでも同じアイスが食える」 「……ゆず」 「以上」 (柚月のデレ……、きた……)  晴太は、目の前のアイスが自分の熱で溶けてしまいそうな錯覚に陥った。もしここが自分の家だったら、ちょっと理性がどこかへ行ってしまっていたかもしれない。  跳ねる心を抑えるように、晴太は冷たいアイスを頬張った。柚月もまた、赤い顔で黙々とアイスを食べている。  夏の恋は、暑くて、甘い。
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