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俺はどうすればいい?
このまま何も気付かないふりをしていれば紫帆の隣にはいられるだろう。あの笑顔を、綺麗な瞳を、甘い身体を独り占めすることが出来る。心の底から好きなんだ。一生かけて笑顔を守ると決めたんだ。だから―
そう思う端から紫帆のあの横顔が目に浮かぶ。他の誰かを、時枝を探す横顔が。そんなの俺の為に諦めさせる。そうだろ?俺達はずっと一緒だったんだ。横入りしてきたのは時枝なんだから。横入り。恋愛にそんなモノなんて無いだろ。気持ちが向かったならもうお終いなんだよ。俺の中から何故か時枝の声が聞こえてくる。
紫帆の気持ち。
それを俺はもう知っている。四六時中見て想ってきた紫帆の気持ちなんて、訊かなくたってわかる。どうする、どうすればいい?見ぬふりでひねりつぶせば紫帆の隣りは手に入る。罪悪感に付け入ることだって出来る。でもそれをしてしまったら俺の一部が死んでしまう気がする。紫帆を大切にずっと大事に想ってきた俺の心が。
暗くて苦しくて、暴れ出したくなるような熱に焼かれた。ずっと耐えるしかない痛みだった。
「貴志、あんた大丈夫?」
夕食の席でとうとう母さんに訊かれた。曖昧に頷くと隣から細い目が心配そうに覗いた。
「お兄ちゃん、ほんと変。好きなハンバーグ、いつもなら私の分だって隙あらば奪い取ろうとするじゃない。」
そう言われて自分の皿を見れば、形だけ崩されたハンバーグが二個、無残な姿をさらしている。
「ああ、いや何かちょっと風邪っぽいのかも。今日は早く寝るわ。ごめん、もう部屋行って良いかな。」
え、風邪?今の季節に?あら理沙、夏風邪ってあるでしょ、あんた受験生なんだから気をつけてね。はーいって、そうか私受験生なんだね?何言ってんのよ、参るわ。妹と母さんの掛け合いを背中で聞いて、真っ暗な自室のドアを開けた。
ここも暗いな。まるで俺の心ン中みたいだ。
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