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「え、あ、ちょっと返してよね。」
「いいじゃん、今だけ貸してくれれば。」
「大事なラケットなんだよ。何に使うの?」
「え、そりゃ勿論テニス。」
「男バレ軍団で?」
「おう。」
「出来るの?」
「何なら指導してくれる?」
「お断りします。」
「冷たいねえ。」
「冷たいって何よ。」
「真田さーん、こいつ一途なんだからさあ、それに免じてほらちょっと教えてやって?」
「え…」
「てめえ、余計なこと言ってんじゃねえっ。」
「うわ、トキ、マジで顔赤いんですけど。」
るせえ、シメるぞ。大柄な男たちが騒ぎながら横を駆け抜けた。俺のことなんて気付きもしないで。目が合った。潤んだような瞳がひどく大きくなった。それが絶望的に慌てた笑みに変わるのをじっと見ていた。瞬き一つも出来ずにただ。
もう終わりか。終わりなんだな。
一体いつとか何故とかあいつに比べて俺はとか。何の意味もない問いばかり浮かんでは消える。訊きたい事が山ほどあるように思えるけどその実何にもないようにも思える。ただ一つ確かなこと、それだけが全てだ。
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