5.視線の行方

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5.視線の行方

三年の六月は雨ばかりで屋内でのトレーニングが続いた。 顧問がどうやら話をつけてくれたらしく、校内の階段や廊下だけでなく、時々はバレー部やバスケ部の端っこで筋トレすることが出来た。村上の野太い号令は並み居るバレー部員やバスケ部員をなぎ倒すような迫力があって、ちょっと誇らしくなった。 あれ、また紫帆が顔を上げている。さすが部長、トレーニング中でも部員の事をよく見てるな。そう思った。でもさすがに視線を彷徨わせている横顔を何度も見つけて、いい加減不思議に思った。一体何を見てるんだろう?部員、じゃないよな?じゃあ何だ?言葉にならない漠然とした違和感が心を覆い始めた。何だ、この感じは?訳がわからないながらひどく焦った。何で俺は焦ってるんだ?どうして急に動悸が激しくなったりしているんだ?俺達は、俺と紫帆はもう一年以上付き合っているんだぞ。キスだってあのバレンタインデーからもう何度もした。ゆっくり時間をかけて深いキスもするようになった。休日に出かけるのだって。 誕生日には、ベタでごめん、しかも編み目つっちゃって、と恥ずかしそうにマフラーを首に巻いてくれた。やだ、うそ、丈長すぎる。涙目になった紫帆が愛おし過ぎて、彼女から貰えるなら何だって最高だよ、と言ったら背伸びをして頬にキスしてくれた。人前で紫帆からしてもらうのは初めてで、びっくりして固まった俺の肩を、貴くん驚き過ぎだってと笑いながら叩いていた。 それはつい三月のことだった。たった三ケ月前のことだ。
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